飯田雅子 理事長より
ひとこと
プロフィール:日本女子大学を首席で卒業。知的障害者の研究や弘済学園をはじめとする障害者施設の施設長を歴任。大学の講師も務める。平成25年、弘済学園での功績を認められ「瑞宝双光章」を叙勲。
過去の「ひとこと」は、右上のその他のテーマから見ることができます。
これまで掲載してきた「ひとこと」を再編集した本が発売されました。
詳細は「寄り添い支援のまなざし」をご覧ください。
*ここからは掲載順になっています
「理事長より ひとこと」は都合により、しばらくお休みします。
利用者さんと関わる際に心得ておきたいこと
人としてすこやかに育ち、しっかり学び、生き、幸せな人生を歩んでもらいたいと願うことは、誰しも同じです。しかし、障害のある人の場合は、その障害の特性を心得て、育みの経過を重ねていかなければ、あちこちでつまづきを起こしてしまいます。その意味で、関わる側の役割は大きいといえます。
そこで、この「関わる際に心得ておきたいこと」を大雑把になりますが、各ライフステージでのポイントとなる点を実際における心得たいこととして述べていきたいと思います。
以下に項をとって進めます。
1.ほめる・しかる
2.やり方を伝える
3.本人の関心に対する対応 ~ 環境・準備・設定 ~
4.仲間づくり
5.役割を担ってもらう
1.ほめる・しかる
本人にとって「ほめられる・しかられる」という事柄は、関わる側としては、本人の歩みの途上で出会う様々な局面に対しての考えや行動の尺度を得てもらうつもりで対応するものです。そして本人にとっては、その一つひとつの日常的対応に大きく影響を受け、性格の上に、また考えを構築していく上に反映されていきます。特に人格形成への基本となる関わりになります。
その意味で、特に穏やかな人となりに育ってほしいと願う時、とても重要なポイントになることを心得ておきたいと思います。その関わり方としては、ライフステージを考慮することが要です。
そこで各ステージでの心得るポイントをあげます。
乳児期は全面擁護の下に過ごし、自分の扱われ方の全てを感覚の芽生えと発達とともに、キャッチしていくと捉えてよいでしょう。そこで関わり方のポイントは、全てにやさしく暖かで丁寧が大切です。この関わりが「快」を感じさせるからです。この点の留意を欠いて怠りがちになると育児者本位の扱いになりやすく、雑な扱いになってきがちです。
子どもは事態を感覚でキャッチしていきますので、関わる側の表情や言葉・動きそのものがストレートなアプローチになるのです。育児の中心になる寝かしつける際・食事・オムツ交換、全ての日常生活の対応が含まれるのです。
「快」につながる対応を貫くことです。
3~4歳になり少しずつ動き出して危ない場面では、まだまだ話してわかる時期ではありませんので、自分のやったことがダメなことを感じとって分かっていくことを計り、怖い表情をつくり、両手を握って緊張状態に置き「ダメな事」であるエッセンスが伝わることを考慮します。どうでもよいレベルの内容であるなら、承知だけして見逃していくことも必要です。
結論的には、この時期は「しかること」はほとんど必要でなく、「危険」だけは伝えます。結果、本人は「快の感覚」を多く得ることになるでしょう。
学童期に入り、少し理屈がわかるようになりますので、本人の行動を中心に尺度を持って、その尺度はぶれずに伝えていくことです。特に活動範囲が広がっていく時期に入るので、本人の状態にあわせた「是・非」を明確にしながら進めます。「是」の行動はあたりまえとしないで拾い、ほめるくらいで本人に返し、「非」の行動については「なぜ」をできるだけ現象を中心に伝えることです。
知的障害重度の人には表情で表し、言葉は簡潔に「ダメな事です」といいます。くどくどした説明は、かえって理解できず混乱させることにさえなります。知的障害の中・軽度の人には、その「非」の説明をわかりやすく伝え、そのことを約束事としてとりあげることも有効です。もちろん約束事とする事項は、本人の状態から考えて可能であることが重要です。約束が守れているかどうかの評価を明確に示していかなければ意味はありません。本人に行動の尺度を得てもらうことの目的です。
ここでの留意としては、許容範囲をどこまでどのようなこととするのかです。子どもの現状態を基本に掲げて描くことが必須です。ここで過剰期待になると本人はがんばっても届かず、意欲を失ってしまいます。達成・成功体験が確認できるとそれが自信につながり、対応軸になっていきます。
青年期以降はケースのレベルにあわせて、自分のこと・他人とのこと・社会とのこと等に事柄が広がる中での対人関係・社会的規範などをしっかり伝えるようにします。特にケースの課題行動についての尺度は、特性も絡みますのでなかなか改善の方向へ進まないこともありますが、この際に発揮する力は、幼いころから得ている信頼できる人の対応になるとも言えます。「ほめる・しかる」の適切な行使があって、人への信頼度は強くなるのです。
彼らを支援する長い道中のキーポイントとも言えますので、重視して心得をもって進めることだと考えます。
2.やり方を伝える
知的障害を主とする人たちの特徴として、程度の差はありますが、いろいろな事柄を学習する際の「見よう見まね」の力はとても弱いと捉えておきましょう。よって課題をクリアする方法を考えていく必要があります。
特にスキルを伴うテーマについては、やり方がわかったら処していく方法は学習します。その後、ケースの能力に応じて応用することも可能ですが、彼らの強みは一度身につけたことは維持して発揮が続くことです。それと一度では学習できないことも「何度もくりかえす」ことで学習可能です。
ここで大切なことは、クリアするのに時間を要するだけに、細かく成功を体験するスモールステップのとり方です。そしてこの成功体験が本人の「やってみよう」から「できた」に進み、自信を得るプロセスになっていくことです。人生を生きる上での「意欲」は全ての源泉と捉えてよいと思います。
スキルを伴うテーマのわからせ方についての基本を示します。
①テーマに含むスキルを動作分析します。
②着手からゴールまでを手順として組みます。1パターン化です。この流れが
わかればスピードアップしますが、手順は変わりません。習慣になるところ
まで進めます。
③動作の一つひとつをスキルとして可能かどうかは、本人の身体機能発達の状
況を考慮し、本人の可能域への対応も考えることが必要です。
④スキルをクリアするプロセスの5段階を示します。
段階(意味)
ⅰ.やって見せる。(目的了解)
ⅱ.一緒に手をとってやる。(動作の伝授)
ⅲ.見ていてやらせる。(見守り・安心感)
ⅳ.必ず事後確認をする。(条件付き意識付け)
ⅴ.ときどき予告せずに確認する。(意識付け)
配慮
・動作分析・手技を組む。
・動作の手掛かりを与える。スタートをわからせるために印をつけるなど。
・1~2段階は、本人の学習テンポを重視し、丁寧に進める。時間を要する
と捉えておく。
・強要しない。楽しくやる。遊びにアレンジする。
・やれている姿を、その都度承認する。自信づけ。
重度レベルは1~2段階に時間を多く要しますが、3段階まで進めば維持し
ていきます。
中軽度はケースにもよりますが、1~2段階は早く進みますが、3~5段階
をしっかり確認しながら進めることが必要です。
これらの獲得傾向を知って進めていくことが必要です。
⑤視覚的手順の示しをする。1手順の示しを図解や文字で示し、手掛かりを示
します。
⑥実際の活用場面として、ADLの諸技能は、ほとんどこの教え方の流れをし
っかり時間をかけて実践することで、障害程度が重度の人も8割クリアする
と捉えてよいでしょう。
作業スキルの場面にも十分活用できます。そこで大切なことは、常に本人の対応雄能力に的確なテーマであることが必須です。「やれることは少ないが、その項は信用できる」に。この姿は十分表明します。その意味でも的確な作業課題と本人の力のマッチングが必須です。
現実の日常をできるだけ多く、各人の自力の下に処していく生活にする上での課題として、重視していかねばなりません。できるだけ適切な、本人の発達段階に合わせた各ステージでのテーマを掲げ、対応への留意をして進めていくことです。自立度は、各人の力に合わせた全開での姿であるとき、十分な評価になり、本人は自信を得て進んでいける状況にあるとなるのです。支援者としての本人のわかる力に合わせた伝え方の重要性を再確認し、スモールステップを求めて取り組んでいきましょう。